2012年6月18日月曜日

安東次男との出会い

梅雨の晴れ間の日曜日、世田谷にある2つの美術館に行ってきた。




最高気温が30度近くになるという予報だったので、しじら織りの着物。

地味めな着物なので、帯は、叔母からいただいたビビットなオレンジの麻の帯。

帯あげと帯締めも完全に夏仕様!

下着はもちろん、筒袖の肌襦袢に半襟をつけただけだから、とっても涼しい(*^-^)b





午前中は、静嘉堂文庫美術館の『東洋絵画の精華・後期』の(至高の中国絵画コレクション)展へ。

宋・元時代から清朝までの中国絵画の名品(国宝や重文)などが勢ぞろいしていて、とても見ごたえがあった。




国宝の《風雨山水図》(伝 馬遠)の、風雨にたなびく樹木の表現は長谷川等伯に、雨に打たれながら足早に過ぎていく人の姿は、歌川広重に影響を与えているように思う。

奇想派と呼ばれる王建章の《川至日升図》や張瑞図の《秋景山水図》(いずれも重文)の、デフォルメされた岩山や樹木の表現、不気味に歪んだ岩山の輪郭などは、曾我蕭白のインスピレーションの源となったことだろう。

実際に若冲は、張思恭の作とされる《文殊・普賢菩薩像》を、「巧妙無比」であると称え、この画を参照しながら《釈迦三尊像》を描いたとされている。

静嘉堂文庫のいいところは、日曜日にもかかわらずそれほど来館者がいないので、これだけの名品をほとんど「かぶりつき」で、じっくりと鑑賞できることだ。
(美術鑑賞は、こうありたいものである。)


それに、受付では8ページにも及ぶ詳細なリーフレットが無償で配布されるのも嬉しい。

主な作品の写真も掲載されているので、後で思い出すのに役に立つ。





午後からは、静嘉堂文庫の近くにある世田谷美術館へ。

世田谷美術館は砧公園のなかにあるので、緑豊かで閑静な美術館だ。



企画展では銅版画家の《駒井哲郎》展が開催されていた。

入口付近に駒井哲郎の写真が展示されていて、鼻筋の通った痩身の美男子だった。
(「イケメン」というよりも、「美男子」という言葉がぴったり。)


駒井哲郎の作風は、その時々で大きく変化する。

ジョアン・ミロ風の太い墨線で描いたような作品が登場するかと思えば、パウル・クレーのような可愛いくて繊細な作品もあり、ルドンを彷彿させるモノクロの少し不気味な作品もある。

特に印象に残ったのは、詩人の安東次男とコラボレートした詩画集『からんどりえ』と『人それを呼んで反歌という』の作品群だ。


安東次男という詩人の存在をこのとき初めて知ったのだが、その詩がとてもカッコイイ!


たとえば;



霙(みぞれ)


地上に届くまえに

予感の折返点があって

そこから

腐爛した死んだ時間たちが

はじまる

風がそこに甘皮を張ると

太陽はこの擬卵を温める

空の中へ逃げてゆく水と

その水から

零れ落ちる魚たち

はぼくの神経痛だ


通行止めの柵を破った

魚たちは

収拾のつかない白骨となって

世界に散らばる

そのときひとは







泪にちかい字を無数に思い出すが

けっして泪にはならない



この安東の詩に合わせて、駒井は骨ばった細長い魚の版画を描いている。

東洋絵画、駒井哲郎の版画、安東次男の詩。

素晴らしい出会いのあった日曜日に乾杯!



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