2014年3月2日日曜日

第45回東京都民俗芸能大会

初めて足を運んだ東京都民俗芸能大会(@東京芸術劇場)。


東京に、これほど豊かな民俗芸能が生き生きと存続していたとは!
いやあ、新鮮な衝撃でした。

 もっと遠方の、秘境のような山里や山岳地方にしか保存されていないと思っていた貴重な神楽がたくさん残っていて、それをホールで見ることができるなんて、なんて贅沢なんだろう!

以下は印象に残った出演団体の覚書;
 

●江戸の里神楽(山本頼信社中/稲城市)●

式内穴澤神社の神職および神楽を代々継承する社家・山本家の社中による里神楽。

この里神楽は、中世の巫女舞を起源とし、江戸中期に古事記などの神話を題材にした黙劇に、衣裳や面、振付をつけて演じるようになったという。

現在の当主は十九世山本頼信氏で、平成6年に国の重要無形民俗文化財に指定された。

 

今回上演されたのは「天の浮橋」。

イザナギ・イザナミが高天原の神からアメノヌボコという矛を授けられ、舞いながら大海に矛を刺し下ろす。引き揚げられた矛から雫が落ち、それが固まってできたのがオノコロ島。その後、イザナミは数々の神々を産むが、最後に火の神を出産した際に、火傷を負って黄泉の国へと旅立っていく。イザナギは愛する妻を連れ戻すべく、黄泉の国へ向かう――というストーリー。

 

イザナギの面がとってもハンサム。

イザナミは、おかめ風の顔立ちで、おっとり穏やかな雰囲気だった。

男神・女神が手を合わせて、矛で海水をかきまぜる仕草には、見ていて少し恥ずかしくなるような、土着的なエロティシズムが漂う。

なるほど、これが多神教ならではの神話の世界なのだと思った。

 

足の運びはすり足だし、囃子も笛と太鼓と羯鼓のような打楽器という、宮中御神楽(雅楽)や能楽的な要素を持ちながらも、素朴なところが里神楽の醍醐味だと思う。

大國魂神社などの神社祭礼で、奉納されるそうだから、今度ぜひ神社で見てみよう。

 

 

武蔵御嶽神社太々神楽

武蔵御嶽神社の太々神楽は、「素面神楽」と「面神楽」に大別される。

今回、上演されたのは素面神楽の「奉幣」、「剪」と面神楽の「天孫降臨」。

 

「奉幣」はジャンル的には素面神楽だけれど、現在は翁面をつけ、右手に鈴、左手に御幣を持ちながら、舞台の中央と四方を祓い清めながら舞う。

ただし、足踏みをして四方固めをするような動きをしないのが印象的だった。

 

「剪」では、左手に太刀、右手に鈴を持った2人の男性が、相舞のように舞いながら邪気を祓っていく。神聖で厳かな雰囲気の雅楽のような舞に会場も静まり返っていた。

 

「天孫降臨」では、サルタヒコとアメノウズメが鈴舞を舞い、ニニギノミコトを先導する。サルタヒコは天狗面をかけ、アメノウズメは目がぱっちりした若女のような面をつけ天冠を被り、紅入唐織に大口といった能装束のような出で立ち。

足の運びも、サルタヒコとアメノウズメは、斜め方向に爪先を突きだす独特のすり足で、ニニギノミコト(端正な貴人の面をかけ、高貴な紫の衣を着て、笏を持っている)だけが能楽風の踵を床から離さないすり足だった。

囃子の構成は、笛2人と太鼓1人に羯鼓が1人。

 

翁舞や能装束に似た装束、すり足や囃子方など、能の原形のような神楽は興趣が尽きない。

 

 

 

●数馬の太神楽●
(西多摩郡檜原村九頭龍神社9月第2日曜の例祭で奉納)

伊勢神楽の系統に属するという数馬の太神楽。

今回は、「天の岩戸」伝説をモティーフにした剣の舞が上演された。

一人立ちの獅子が、2本の太刀で舞いながら悪魔払いをするのだけれど、この舞がなんともコミカル!

剣舞って勇壮なイメージだけれど、そうした豪快さとはかけ離れていて、ふざけたように体をくねらせ、足を小刻みに動かしながらチョコチョコ歩く、一方変わった(ある意味前衛的な)舞だった。

伊勢神楽ってこういう感じなのかなー。

でも、重さ4~5kgもある獅子頭をかぶってステージ中を動き回るので、演者の方はハーハーと辛そうな息をされていた。

きっと見た目の何十倍もハードなのだろう。

 

 

 

江戸太神楽(丸一仙翁)●

1日目は獅子舞を上演。

2日目は、大雪被害のため「川野の車人形」保存会の方々が参加できなくなったので、丸一仙翁の方がたが獅子舞に続いて、曲芸を披露して下さった。

最初は傘に毬を載せてまわす曲芸。

一通り毬を載せて回した後、丸一仙翁さんが「客席から毬を投げてください」と最前列に座っていた私に毬を回したので、私がテキトーに毬を投げると、見事に傘でキャッチして回してくれました。

その後、茶碗や枡を傘で回す芸から、輪投げみたいな曲芸を経て、花籠毬(別名どんつく)という変わった芸へ。

どんつくは説明が難しいので、こちらをご覧ください。

剣玉よりもはるかに複雑で、難しそうな曲芸です。

江戸時代から脈々と伝わっている芸。

ずっと続いてほしいです。

 

2014年1月26日日曜日

東京都伝統工芸品展

お能を観た後は、
新宿高島屋で開かれている「東京都伝統工芸品展」へ。

江戸刺繍

草乃しずか展に入って以来、刺繍の魅力にめざたものだから、

今回も江戸刺繍に興味津々。


江戸刺繍と普通の日本刺繍の技術的な違いは分からないけれど、

江戸刺繍のほうが模様のあしらい方が、抑制が効いていて、

シンプルで粋な感じがしました。




江戸刺繍の実演

竹枠の中の薄布に、繊細な絹糸を指していきます。

気の遠くなるような緻密な作業。



江戸押絵羽子板

「押絵」といえば、乱歩の『押絵と旅する男』を思い出しますが、

この「むさしや豊山」さんの工房では、羽子板を専門に制作しているとのこと。

歌舞伎の連獅子や勧進帳をモチーフにした押絵は迫力満点。

江戸時代には、庶民がそれぞれの贔屓役者の羽子板を競って買いあつめ、
人気を博したそうです。


お店でいただいたパンフレットによると;

羽子板は、古くは神社などで、魔除けや占いの神事に使われていて、
(絵馬みたいなものだったのかな?)
お正月の遊戯や贈答品に使われたのは室町期。

綿を布でくるんで、立体的な絵柄に仕上げる「押絵」が羽子板に
取り入れられるようになったのは江戸時代になってからといいます。

江戸時代後期には、歌舞伎役者の舞台姿を写した押絵羽子板が登場し、
歌舞伎の発展とともに、その技術も発達したそうです。

ということは、役者絵の押絵羽子板は、江戸ならではなのですね。

パンフレットには制作過程も詳しく書かれていて、なかなか興味深い。

 外国の人へのプレゼントにも喜ばれそう。


江戸染小紋


着物関係では、江戸更紗や東京本染ゆかた、東京手描友禅、東京無地染などもありました。


ちょうど色無地の染め替えor色かけを思案中だったので、無地染の職人さんに
相談したかったのだけれど、私が行った時は職人さんは休憩中でどこかに行っていて、
留守番の人しかいなかったので、相談できず。

結婚の時、母が持たせてくれた色無地なので(当時20代初めだったから色も派手なのです)、なんとか生かしたいなーと思っています。
一度しか袖を通していないから、今度は末永く着られる色がいいな。




















春らしい(?)付下げ小紋♪

陽射しが春らしくなってきました。


少し前のコーディネート。

灰色がかった紫色の付け下げ小紋に、小物は春らしくピンクを合わせてみました。



                       全身像はこんな感じ ↑。


裾模様が華やかなので、ちょっとおめかししたい時にいいのかも。

これから春に向けて活躍しそうです。




更紗っぽい裾模様が可愛くて、気に入っています。










2014年1月18日土曜日

草乃しずかの世界展

土曜日は、年末から気になっていた松屋銀座『草乃しずか世界展』へ。


会場内は大変混雑していて、しかも、近年まれにみる着物率の高さ!
皆さんかなり気合を入れたコーディネートで、来場者を見るているだけでも眼福、眼福。

展示作品は想像以上に素晴らしいものでした。

細かく繊細な日本刺繍。 細い絹糸で施した美しい文様。

柔らかい絹布だけでなく、シフォンのように薄い布にも刺繍が施されていて、まるで貼りつけたように引きつれもムラもない、恐ろしく緻密な手仕事。

もう、「手先が器用」などというレベルの話ではなく、まさに神業のような「刺繍の至芸」でした。


源氏物語シリーズ《夢浮橋》

そうした高度な技術もさることながら、草乃しずか先生の素晴らしさは、なんといってもそのたぐいまれなデザイン感覚と色彩感覚、そして刺繍によって紡ぎだす独自の文学的・絵画的世界です。

たとえば、↑ 上の源氏物語五十四帖の《夢浮橋》では、2人の殿方に愛されて苦悩する浮舟の出家前の迷いの世界と、出家後の決然とした世界を黄色と青で染め分けているそうです。

紫式部の象徴である藤の花がデフォルメされた形で、出家前と後の世界を分けていて、琳派的な美の世界を表現しています。


十二ケ月の着物がたり

作品を単に展示しているだけでなく、季節ごとのさまざまなシーンを想定したコーディネートが紹介されていたのも、着物好きには嬉しい限り。


写真のように、着物や帯・半襟だけでなく、バッグや帯揚げ、丸ぐけの帯締め、草履の鼻緒など、小物にも、四季の移ろいを感じさせる精緻で可愛らしい刺繍が施されていて、素敵でした。


印象的だったのは、2月の豆まきを主題にした帯や、8月の金魚と花火をテーマにした帯など。

刺繍に、ビーズやレース、スワロフスキーなどもあしらわれていて、キラキラ輝く万華鏡のような世界。

乙女心をくすぐります。


篤姫に捧げる浅葱色麻地江戸解き模様刺繍

また、草乃先生のご両親やお義母さま、お祖母さまの形見の着物や帯に刺繍を加えて作品にしたシリーズにも心惹かれました。

私も先日、亡き祖母の着物を着てみたけれど、懐かしい人の思い出の着物に手を加えて甦らせるって素敵だな。


先生の最近の作品では、アフリカの動植物やエジプトの壁画(ヒエログリフなど)、ペルシャの獅子狩紋などをモチーフにしたものもあって、いくつになっても瑞々しい感性をお持ちなんですね。

先生は私の母と同世代ですが、とても若々しい。
才能を発揮できる何かを持っていること(+人から注目されること、目的意識を持つこと)が、若さの秘訣なのですね。
ビデオの中で先生は、「刺繍で世界を変える!」とおっしゃっていました。
いくつになっても遠大な夢を持ち続けるという、そのパワーが凄い!


サイン会で先生のお姿を拝見しましたが、江戸紫の地に刺繍を施したお着物に刺繍半襟、刺繍帯(おそらくどれもご自身の作品)をお召になっていて、素敵な方でした。


やはり美的センスが優れている人って、何をどう着こなせば自分が綺麗に見えるかを心得ているんですね。

感性の柔軟さ、繊細さって、いくつになっても大切なんだなと改めて思いました。



刺繍と着物の世界を存分に堪能した展覧会でした。
着物のコーディネートに刺繍半襟などを少しずつ取り入れていけたらいいな。

ちなみに、ミュージアムショップに、先生の作品(?)らしき刺繍入りバッグや帯、半襟も販売されていて、刺繍半襟は3~5万円台。
ちょっと手が出なかったけれど、先生の作品だったらそれくらいは当然かもしれません。
(たとえ購入したとしても、もったいなくて、私には使えないだろうな。)



































2014年1月14日火曜日

昭和モダン

三越本館の中央ホールでは、映画『小さなおうち』の昭和モダンな世界観を再現したカフェが設けられていました。


『小さなおうち』は直木賞受賞時に読んだけれど、映画は昭和らしい映像(特に着物姿)がなんといっても魅力です。
(『利休にたずねよ』といい、直木賞作品の映画化がちょっとしたブームなのだろうか。)




↑ こういう銘仙の着物や羽織って大好き。

あの時代のファッションを見ると、胸がときめきます。





割烹着キューピー。

三越の昭和カフェでは、こういう割烹着姿の女給さん(?)が給仕をされていました。




映画の部屋を再現したセット。 なかの小物もレトロなものばかり。

カフェでは、映画の中で出演者が着た着物のコーディネートも展示されていて、わくわくドキドキ。

ちょうど骨董市で売っているような着物でした。

古い着物はマネキンに着せたり、映画の中で見たりすると素敵なんだけれど、実際に着ると、街中ではかなり浮くから(コスプレになるから)、見るだけしか楽しめない。
(サイズも合わないしね)

でも、着物の昭和っぽい着こなしって好きだなあ。

センス良く、現代のコーディネートに取り入れられたらいいな……。

心の美「富士山」を描く名画展へ

昨日は、日本橋三越で開かれていた『富士山』展の最終日へ。



着物は先日と同じ、茜色の色無地。

帯は、二重太鼓強化月間なので、金銀箔の袋帯。

この色無地には、こういう黒っぽい袋帯のほうが仲居さんっぽくならなくていいかも。


さすがは成人の日、駅でも電車でも三越でも、振袖姿の人をたくさん見かけました。

いっとき人工的なレインボーカラーの振袖が流行っていた時は、残念な感じだったけれど、

最近は、また古典柄が主流になってきているらしく、純粋に「素敵だな」って思えます。






さてさて、肝心の展覧会ですが、
富士山の絵って陳腐な感じがしてたけれど、ありきたりの画題だけに、日本画・洋画・版画の巨匠たちがそれぞれ個性や独創性を発揮していて、かなり見ごたえがありました。

富士山の絵で真っ先に思い浮かぶのが、片山珠子。
前衛的でインパクトのある日本画というイメージでそれほど好きではなかったけれど、実際に見てみると、なかなか味わい深い。

とっても高価な顔料をふんだんかつ効果的に使っていて、色彩のセンスと存在感が際立っていました。

小野竹喬の《春朝》は、竹喬らしく、幸福感を与えてくれる可愛らしい絵。


木村武山(ぶざん)という明治の日本画家は初めて知ったのだけれど、《寒林富岳》は、ふっくらとした積雪や風雪に煙る寒林の影、富岳の寒々とした空気が墨だけで表現されていて、素晴らしかった。 もっと評価されていい画家じゃないかな。

新しいところでは、関口雄揮(ゆうき)の《明けゆく》も、暁の光に照らされた富士の雪の質感や、山容を映す静謐な湖の水面の表現が見事。


そして一番印象的だったのが、稗田一穂の《富士の見える駅》。
4本の線路が2本に合流する踏切を、犬を連れた令嬢が渡ろうとしている何気ない駅の風景。
線路沿いの家の庭には桜が咲いていて、うららかな春の日常的な一こま。
線路が消えていく山並みのさらに向こうに、雪化粧の溶けない富士の山頂が覗いている、という絵。

富士山って全体の姿も美しいけれど、何かの拍子に富士の山頂だけひょいと見えると、なんだか幸せな気分になる。

《富士の見える駅》は、そのちょっとした幸せを巧みに描きこんだ素敵な絵でした。
























2014年1月12日日曜日

紋なしの色無地

着こなしの幅が広がりそうで広がらない、紋なしの色無地。                                             



とくに、今の時期はコートを脱ぐ機会が少ないのでコーディネートもテキトーになりがちです。


↓ 下は去年のクリスマスのコーディネート。

といっても、誰もクリスマスっぽいって気づかないだろうから、完全に自己満足ですね。

(写真では鮮やかな赤だけれど、実際はもう少し落ち着いた茜色です。)



紋なしの色無地って、柄半襟などと組み合わせると、もっと楽しめるのかなー。


この着物、だいぶ布が弱ってきているので、この1,2年で着倒すつもりです。