2013年8月2日金曜日

荒磯能事前講座

もう2週間以上前になるけれど、観世会荒磯能の事前講座に行ってきた。



事前講座というものに参加したのは初めて。

金沢文庫の研究者の方と、シテの方々(坂口貴信師と武田友志師)による質疑応答形式の解説&ワークショップ(実演)で構成され、私のような能楽初心者にはとっても勉強になる講座だった。

(MCは観世芳伸師で、まるで噺家さんのようにお話がうまく、講座は和気あいあいとしたムードで進行。)

第Ⅰ部は、坂口さんがシテを演じる《放下僧(ほうかぞう)》の解説。

「放下(ほうげ)」とは禅用語で「悟ること」を意味するらしいが、能のタイトルでは「ほうか」と読むとのこと。
放下僧とは、禅僧と芸能者を足して二で割ったような存在で、寺院の建立・修繕および橋梁の建設などに必要な寄付を募るために、芸を披露する役割を担ったといわれている。

異形のいでたちで、団扇が大きな役割を果たし、芸能者の象徴として笹を背中に差している。

通常、能ではシテ方は面を掛けるのだが、この《放下僧》では直面(ひためん)で演じるという。

ただし、ワキ方の直面とは違い、シテ方が直面で演じる場合は、能面のような表情で演じなければならないそうだ。


以前、坂口貴信師の仕舞を観たときに、一度も瞬きをしない(ように見える)のに驚いて、「直面だけれど、能面のようだ」と思ったことがある。
直面でシテを演じるこの《放下僧》は坂口師にぴったりの曲目ではないだろうか。


解説の後、地謡の方々も入って、見どころの実演。

普通のお能の方とは違う、狂言っぽい軽妙さが醍醐味とのこと。本番が楽しみだ。



第Ⅱ部は、夏にふさわしい《雷電》の解説。

シテ方の武田友志師がぎっくり腰になっていたため、急遽、弟君の武田文志師が代役をつとめられた。

お能の舞いや正座は腰に負担がかかりやすく、腰を痛める能楽師は少なくない。
たしか、坂口貴信師も昨年の能楽研鑽会のころ、ぎっくり腰になられて、治療しながら《賀茂》を演じていらっしゃった。

とくに《雷電》では激しい動きが多く、内裏を表現する一畳台を、床を打ち鳴らすようにジャンプしながら昇ったり降りたりする演目なので、腰への負担は相当なものだと推察する……。

ドライアイが翻訳者の職業病であるように、腰痛は能楽師の職業病なのだろう。
この仕事をつづける以上、付き合っていくしかない。

武田師には一日も早いご快癒を心からお祈り申し上げる。


最後は、実演に参加された地謡の方々も舞台に登場し、全員で高砂を謡って終演となった。

とっても充実した盛りだくさんの事前講座であった。

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